ノックビン(ジスルフィラム錠) アルコール依存症治療薬

アルコール依存症治療薬レグテクトから抗酒剤ノックビン(ジスルフィラム錠)に変更。強制的に酒を飲めない体質にする訳だから、抑止力の差は歴然。

アルコール依存症とは?

      2016/12/10

アルコール依存症とは?

アルコール依存症、アルコール症、アルコール中毒は、それぞれどうちがうのですか?

アルコール依存症とはすでに心理的・身体的依存におちいっている段階、アルコール症とは心理的依存で身体的合併症をおこしているものをいいます。以前は二つを区別せずに慢性アルコール症、俗に「アル中」とよんでいました。
戦前は、アル中や麻薬中毒の状態を総称して「薬物嗜癖」とよんでいました。「薬物嗜癖」とは、習慣性をきたしやすい麻薬などの薬物をくり返しもちいているうちに、
①しだいに増量しないと効かなくなり(耐性獲得の段階)、②そのくすりを得るためには犯罪も辞さぬという強烈な欲求を生じ(心理的依存の段階)、③くすりを断つと激烈な禁断症状がでる(身体的依存の段階)へと、段階的にすすんでいく病気であると考えられていました。そして、ヘロインのような麻薬だけが、心理的・身体的依存をおこすとされていました。
しかし、終戦直後の覚せい剤の流行にはじまって、その後、睡眠剤から精神安定剤、幻覚剤などさまざまな薬物が嗜癖の対象になってきたのです。このなかには、身体的依存をおこさない習慣性の薬物もふくまれています。しかも、麻薬のなかにもコカインのように禁断症状のないものがありますし、反対に嗜癖品であるアルコールが麻薬にも劣らぬ激烈な禁断症状をおこすなどの矛盾が明らかになってきました。
したがって、現在ではこれらの嗜癖性薬物や習慣性薬物のすべてをふくむ広い概念として「薬物依存」という用語がもちいられ、禁断症状は「離脱症候群」もしくは「退薬症候群」とよばれるようになっています。ただし、本書では、これからもわかりやすい「禁断症状」で統一してあります。

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アルコール依存症の前の段階

健康飲酒からアルコール依存症になるとき、その前段階のようなものはあるのですか?
アルコールを飲みつづけていると、飲む量のふえる時期がやってきます。「手が上がった」などと喜んでいる人がいますが、これが依存症への第一歩、「耐性獲得」の段階なのです。もっとも、睡眠剤や精神安定剤にくらべて、アルコールはこの耐性獲得のもっともおこりにくい薬剤です。本書のはじめに、アルコールが優秀な睡眠剤であるといったのは、この意味です。
しかし、夕方になってネオンがつくとソワソワし、帰宅の途中で飲み屋に立ちよらねば気持ちがおちつかないようになれば、りっぱな「心理的依存症」の段階でしょう。こうして、夜の酒をうまく飲むために昼食をソバだけにして腹を空かせておくなど、万事がお酒中心にまわりはじめ、そうした生活を十数年もつづけていると、ついにはからだがアルコール分なしにははたらかない「身体的依存」の段階へと突入します。身体依存をおこすまでの期間は、飲みかたや個人差でちがいますが、毎日五合以上の大量のアルコールを飲みつづけた場合、5年から10年で禁断症状がおこるとされています。
このような大酒家が、虫垂炎などにかかって外科病棟に入院した場合、その晩から一睡もできず、三日めの夜からは恐ろしい幻覚が襲う「振戦せんもう」という代表的な禁断症状がおこってきます。これは、いままでアルコールで飽和されていた大脳におこる激烈な失調症なのです。
アルコール依存症とは、じつのところ「脳のアルコール症」ということになるのですが、飲酒によって、大脳だけでなく肝臓やすい臓、心臓など多くの臓器にも障害がおこってきます。アルコールはこのように多くの内臓をまきこむ病気をつくるというのが、「アルコール症」の概念なのです。つまり、アルコール依存症が「脳のアルコール症」だとすれば、アルコール症とはアルコール関連性成人病、つまり「からだのアルコール症」と考えてよいでしょう。

アルコール依存症になりやすい性格

ほとんど毎日かなりの量のお酒を飲んでいるのに、アルコール依存症にならない人がいますが、依存症になりやすい性格というのはあるのですか?
動物実験の結果からは、四六時中大量のアルコールをあたえれば、だれでもがアルコール依存症になることになります。しかし、人間の場合、じっさいにはいくら大酒を飲んでも依存症にならぬ人があり、たいした量でもないのに依存症になる人がいます。では、アルコール依存症になりやすい人格や性格の傾向はあるのでしょうか。
わが国のアルコール症の断酒会員も、「心の誓い」のなかで、まず自分の酒への逃避傾向を認めて改善を誓っているのですが、精神分析の本場のアメリカでは、アルコール依存は現実の社会に適応できず、飲酒によって幼児期に退行して現実から逃避をはかるというパターンで説明されています。その説明としては乳児期の口唇愛傾向を強調するものと、幼児期の潜在性同性愛傾向を指摘する学派とがあります。
このうち、口唇愛傾向とは、わかりやすくいうと、アルコール依存になりやすい人には、自我が未発達で甘えん坊、依頼心が強く、情緒的にも不安定な「依存的人格」の人が多く、まるで哺乳びんをくわえてスヤスヤ寝こんでいる赤ん坊のようにウイスキーのボトルにしがみつくという学説です。
アルコール症の患者さんが酒におぽれる理由は、人によってさまざまです。こうしたみかたが一部はあてはまるとしても、すべてを説明できる学説ではありません。また心理テストによって、一定の性格傾向をもとめた研究も多いのですが、アルコール症になりやすい依存的性格として特別にこれといったものはでてこないといえます。
しかし、安酒場で禁断症状のため命を落としたエドガー・アラン・ボーをはじめ、肴がわりに催眠剤アドルムをかじりながらカストリを飲んでいた太宰治や坂口安吾などのように、これらの学説のビックリくる文士も少なくないのはたしかでしょう。

●「悲しい酒」の問題点
悲しみをまぎらわすために飲むお酒は、楽しいお酒よりもアルコール依存症になりやすいというのはほんとうですか。
女性には、夫との離婚や死別など、愛する対象を喪失した心のいたでを酒でまぎらわしているうちに依存になってしまう人が少なくないようです。これは対象喪失の「悲しい酒」の典型です。
「ひとり酒場で飲む酒は 別れ涙の昧がする」(石本美由起作詞「悲しい酒」)この歌を絶唱するたびに涙を流していた美空ひばりは、離婚にはじまり、つぎつぎに肉親をなくすという悲運にみまわれました。最愛の対象を失うことを、精神分析学では「対象喪失体験」というのですが八こうした悲痛な体験をなんとかまぎらすために深酒に走る人は多いのです。酔うほどに、もうろうとして気持ちもすこしはらくになり、酔いつぶれて寝こんでいる時間だけは悲しみを確実に忘れることができます。かくて美空ひばりは毎夜ブランデーや焼酎をあけるようになって命を縮め、「三人娘」のもう一人、江利チエミも離婚の傷心から立ちなおれずに孤独の死をとげました。
1981年に比嘉、波田、窪田らが九〇名の女性のアルコール症の患者さんに行ったアンケート調査をみても、女性では、男性のアルコール症にくらべて自律神経失調
や神経症傾向、抑うつ傾向、ほかの薬物依存の合併症などが明らかに多くなっています。また飲酒パターンとしては、男性アルコール症の患者さんのほとんどが20代までに酒を覚えるのにたいし、女性では三〇歳以上の初飲年齢が四分の一以上いました。
最近は、みるからに気の強そうなタレントがCMで「女性にビール、もう常識でしょう」と怒ったようにいう時代になりましたが、この調査の行われたころは女性の社交的飲酒は少なく、精神的ショックから酒に走る場合が多かったのです。つまり、女性の酒はおくてで、楽しい酒よりも悲しい酒であり、心のいたみを晴らすための精神安定剤がわりにお酒をガブ飲みする結果、アルコール症になるという状況でした。
最近のヤングの飲酒人口の男女比は完全に一対一になり、いまや週末の都心のビヤホールは若いOLたちに占領されて、若い男性サラリーマンはスミのほうで小さくなっています。結婚難も男性のほうがしんこくですし、失恋でメソメソするのも若い男です。「悲しい酒」は男のものになったのかもしれません。右に紹介したアンケート結果に思いあたる男性も、アルコール症にならぬように気をつけたほうがよいでしょう。
ヒミコの時代から、倭人は葬式で酔い泣きしていました。人は耐えがたい心のいたでを酒でまぎらしますが、長期間アルコールに依存するのは危険なのです。
危険な飲みかたのいろいろ
そのほかにも、こういう飲みかたは危険だという、アルコール依存症になりやすい飲酒パターンはありますか?
◇神経をつかう人の酒
「ノミニケーション」とかいって、とかくサラリーマンには接待酒、つき合い酒がつきものです。かつて、やるせなさそうな真顔をとたんに愛想笑いに切り換えるCMがありましたが、自分を殺して飲む酒のホロ苦さが、宮仕えの身にいたくしみたからでしょう。
また、秒きざみでピリピリ神経をはりつめているテレビ関係者も、いきおい番組が終わると夜の街にくりだすことになりがちですが、これは、公演の打上げに役者一同が乱痴気騒ぎをするのとおなじ心理でしょうか。
こうして芸能人やマスコミ関係者にお酒の強い人が多くなるのですが、与太郎を演じながら客の笑いばかりを気にしている落語家も、おなじくストレスの多い商売といえます。気をつかいすぎて神経性脱毛症になった圓蔵師匠や、突拍子もない奇行で発散していた故林屋三平師匠は有名ですが、彼らの気づかいや奇行も商業上のサービス精神と結びついていて、どこまでがっくりで、どこまでが地なのか、本人にもわからなくなっている気味もあったようです。
大喜利で毒舌とキザを売りものにしていた小円遊師匠も、肝硬変で若死にしました。がんらいが小心な照れ屋なのに、正反対のポーズをとるのですから、酒でごまかさねば神経がもたなかったのではないでしょうか。
私のように、長いあいだアルコール症の人とつき合っていると、彼らには酒の力を借りねば文句のひとつもいえぬという、対人恐怖症的な人が多いことに気づかされます。テレビ対談などを聞いていると、青年期の対人恐怖症を克服して演技派とよばれるようになった名優も少なくないようですが、このような積極的な姿勢をとらず、いたずらに酒に逃避しているのは、あぷない飲みかたなのです。

自虐的な酒
すっかりサラリーマン化した現代の流行作家とちがって、私小説を書いていた戦前の文士のなかには後年アルコール症になった人がたくさんいました。
梅埼春生は、酒の入手が困難だった戦時中にも酒を欠かさず、肝硬変で禁酒を命じられていながら飲みつづけました。『火宅の人』を書いた無頼作家檀一雄も、自己嫌悪にさいなまれながら酒と愛欲との自分の生活を材料にペンをとる、すさまじい生きかたをした人です。
「酒精中毒者の死」という詩を書いた萩原朔太郎は、たえざる不安と死の恐怖とにおびえていました。「かの医薬にまして、私の健康を助けてくれた」という酒にたいする感想は、彼の酒が神経症性の不安をとりのぞくためのトランキライザーの役割をはたしていたことを示しています。最近ふえている主婦のアル中のなかにも、このような情緒不安を静めるトランキライザーがわりに酒を飲むタイプが少なくありません。
破滅型作家の代表の太宰治も、錠剤をガリガリかじりながら自虐的な酒におぽれました。飲むと「恥ずかしい」が口癖で、自殺未遂をくり返したすえに、玉川上水で心中自殺をとげました。
大正から昭和にかけての私小説作家は、自分自身を材料に掘り下げるので、つい苦しくなって酒に逃げたものでしょう。精神分析医となるために、みずから患者となってスーパーバイザーの教育分析をうける訓練がありますが、このようなときに自分の欠点ともろに対決させられてうつ状態になることがよくあります。これも似た状態といえそうです。人間には自尊心があって、自分の欠点はなるべく意識しないようにしています。だからこそ精神衛生がたもたれているのです。
アルコール症になる人は、デリケートで、ほんとうは自分の欠点に敏感で、自分のみにくさが許せないから酒を飲むのでしょう。「架、討をひきて自らをなだむ」という中国の格言にあるとおり、自分の欠点とてきとうに折りあえる人のほうが適応もよく、アルコール症にならずにすむのかもしれません。

アルコールによる病気

とくにからだの病気になりやすい飲みかたというのはありますか。
若いころには一升酒を飲んだ翌日もケロリとしていた酒豪でも、体力に限界を感じはじめる40代後半になると肝臓の解毒能力がおちて翌朝に酒気が残るようになります。そのまま酒量を落とさずに飲みつづけていると、全身の内臓がいたんできて、い
ろいろな成人病をおこしてきます。「アルコール症」はこうしてできあがるのです。
もとアルコール症患者であった人たちの断酒会に出席してみると、60代かなと思った人が、聞いてみると四〇代といわれておどろくことがあります。長年の酒毒によってあらゆる内臓がやられているために、アルコール症の人にはほんとうの年よりも老けてみえる人が多いのです。
私の勤務している川崎市立井田病院でも、20代から一升酒を飲みつづけた結果、ありとあらゆる成人病をおこし、まるで七〇、ハ○代のお年寄りのような顔つきになって死亡した事例がありました。
では、どんな飲みかたがからだに悪い飲みかたなのでしょうか。「肴はあぶったイカでいい・・」と歌う演歌がありましたが、肴にうるさい酒飲みは伝
統的な酒飲みの美学から外れるようです。「上戸」とよばれるほどの酒飲みは、肴は目でたのしむだけで、決してハシをつけず、ひたすらお酒だけを飲むといいます。かろうじて許される肴は小皿にもったネギに味噌という「ネギミソ派」のみが、「上戸」とよばれるに値するものでした。
酔仙とよばれた李日にいたっては、良質の塩があれば「よし」としました。また、ハッピ姿の職人が酒屋の桝酒をキューッと一杯ひっかけて、ほのかに塩分のしみた桝の端をキリリと噛む姿が、江戸前のいなせな飲みかたとされてきました。
こういう飲みかたをすると、早く酔えることはたしかです。酒がとほうもなく高価だった時代に、少量の酒で酔っぱらうための庶民の知恵だったのでしょうか。しかし、こうした酒飲みの美学に忠実な飲みかたは、じつはからだにもっとも悪いのです。

アルコールと内臓の病気

お酒でまずやられる内臓はどこですか。
まず害をうけるのが、アルコールが通過していく消化器系です。からっぽの胃にウイスキーや焼酎などの濃い酒を流しこむ飲みかたをつづけていると、急性胃炎から胃潰瘍になっていきます。もっとも、お酒を最初に流しこまれる食道のほうがまっさきに被害をうけるので、アルコール症の人には食道がんが多いともいわれています。アルコールは皮膚につけてもヒリヒリします。デリケートな食道や胃の粘膜を毎日これで消毒している理屈ですから、胃袋が反乱をおこすのももっともでしょう。二日酔いのムカムカも、飲みすぎによる急性胃炎の症状によることが多いのです。
イヌに20%以上のアルコールを飲ませていると、急性胃炎からやがて胃潰瘍をおこすという動物実験もあります。
そんなしだいで、私のアルコール外米にも胃切除をうけた患者さんがくるのですが、胃袋をとってしまうと濃度の高いアルコール分が吸収のよい小腸に直接いく結果になるので、酒がいっそうよく効くことになります。「酒のために胃を悪くした。悪いところはみなとった。だからポクは酒を飲んでもいい」という奇妙な三段論法を駆使して、胃切除後も酒を飲みつづけた教室の先輩医師は、残胃がんにかかって45歳の若さで亡くなってしまいました。こうして天国に召されないまでも、胃切除をうけてから五年ぐらいのうちに「アル中双六」の上がりとなって、国立療養所久里浜病院(アルコール症治療センター)に入院する患者さんが一割近くいるそうです。
最近は内視鏡が発達しているので、食道から胃・十二指腸までのアルコールによる病気の状態が一目でわかるようになっています。
新町クリニック所長高木敏先生の解説によれば、肝硬変による食道静脈瘤が高い割合であるのはべつにしても、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などがおこる割合は、二股人間ドックなどでの成績にくらべてやはり高いということです。
このなかで、マロリー・ワイス症候群とは、嘔吐などできゅうに腹圧が上昇したときに胃の噴門部に裂けめができて血を吐く病気で、食道静脈瘤の破裂とまぎらわしいものです。まれですが、重要な病気です。
症状は、嘔吐がつづいた4〜12時間後に、しやっくりやせきとともに吐血がおこります。診断は、内祝鏡検査で噴門部の裂けめと出血とを確認することです。そのまま禁酒、禁食にして点滴をしながら安静をまもれば回復しますが、ショックをおこしたときには噴門部を切りとる手術になります。
大酒のあとで胃の俯が裏返しになるような苦しい嘔吐がとまらず、おまけにしつこいしやっくりやいやなせきがでてきたら、そろそろ手術の覚悟をしたほうがよいでし

アルコールと肝臓の病気

お酒でいためる内臓というと、まず肝臓を思い浮かべますが、じっさいには肝臓にどんな病気がおこりますか?
私の先輩にあたる医師に、割りバシの塩をなめなめ、ひたすらお酒だけを飲む究極の「上戸」がいましたが、こうした飲みかたをすると、肝硬変になる率がだんぜん高くなります。肝硬変の内科的療法としては、高たんぱく、高カロリー、高ビタミンをあたえる食事療法が有名です。美空ひばりが急逝したのは、あ
やしげな外国人の「断食療法」を信奉したためでした。
「肝臓食」の食事療法を考案したコロンビア大学のパテクとポーストという二人の学者は、肝硬変になるのはアルコールのもともとの毒よりも、酒の飲みかたによる栄養障害の結果にすぎないという説をたてています。したがって、水原弘や石原裕次郎などの「酒飲みの美学」を満足させる豪快な飲みかたは、まる
で肝硬変になるのを志願しているようなものといえるのです。
ここで、酒と肝臓との関係をちょっとふり返ってみましょう。
体内にはいったアルコール分は肝臓で分解されて体外にでていきます。
ところで、、体重60kgの平均的な日本人が一時間で分解できるアルコールの量は6.6gでした。これは清酒50ml(ウイスキーでは20ml、ビールでは180ml)に相当します。400ml(二合余)の清酒が体内から完全に消えてしまうには、長めに見積もると八時間を要することになります。この
倍量、すなわち四合以上を飲めば、アルコール分はとうぜん翌日まで残る計算になります。五合以上の酒を毎日のように飲む大量飲酒者は、肝臓にいつもかなりの負担をかけつづけていることになるのです。
その証拠に、まだ自覚症状のない大量飲酒者にGOTやγーGTPなどの肝機能の血液検査を行うと、その八割が肝臓障害に相当する異常値を示すということです。
このような大量飲酒をつづけていると、まず肝細胞のなかに脂肪が沈着する「脂肪肝」がおこり、ついで食欲不振、嘔吐、黄疸、発熱をともなう「アルコール性肝炎」になります。それでもこりずに飲んでいると、だいじな肝細胞がすっかりこわれてガラス様線維におきかわり、ついにはやわらかだった肝臓は縮んでコチコチになり、血液さえ通さぬ、瘢痕と化した「肝硬変」になるのです。
わが国の肝硬変は、C型肝炎から進行するケースが多いといわれていますが、純粋にアルコールだけからの肝硬変は三割近く、C型肝炎からなったと考えられた群にも大量飲酒者が圧倒的に多いのが事実です。また、国立久里浜病院アルコール病棟に入院してくる患者さんの約三割が肝硬変にかかっているそうです。
このように、アルコールは肝硬変の危険因子の最たるもので、脂肺肝になった人があいかわらず大量飲酒をつづけた場合、その三分の二までが肝硬変にすすむという統計さえあります。
肝臓は重要なはたらきをいくつももっています。胃腸から吸収された食べものから、たんぱく質、脂肪、糖質の三大栄養素の合成を行っています。なかでも人の活力のもとである血糖の生産・調整を行うので、肝臓を悪くすると全身がだるく、疲れやすいのです。
このほかに、肝臓は胆汁の生産、造血、止血などの役目ももち、からだ中の解毒を一手にひきうけています。アルコールもまた毒物のひとつで、肝臓で分解されています。だから健康な肝細胞が半分に減ると、その分解能力もとうぜん二分の一になります。長年の飲酒で肝臓をいためてからも、五合の酒を飲むとすれば、じょうぷなときの一升に相当します。こわいことです。
また肝臓は、胃腸の血管から吸収された栄養物を運び、心臓へと返す「門脈系」という静脈血の大道路になっています。その中心の肝臓が縮んでコチコチになり、血液を通さなくなれば、胃腸から肝臓に集まってきた静脈血は、腹壁や胃や食道などの細い静脈をむりやり押しひろげて心臓にもどろうとします。そのため食道に静脈瘤をつくったり、また静脈血のとどこおりによって腹水がたまったりするのです。

肝硬変の予後
肝硬変そのものが直接の死因となることがあるのですか。
酒豪で有名なさる喜劇俳優がテレビで自分の静脈瘤破裂の体験を語っていましたが、こうした食道の静脈瘤は、おなかがはって腹圧がかかったり、モチなどのかたい食べものをきゅうに飲みこんだりすると、かんたんに破裂します。おまけに、肝硬変の患者さんは止血酵素であるプロトロンビンをつくる能力が落ちているので、出血するとなかなかとまりません。食道静脈瘤は、初回の破裂で五割近くの人が死亡するといわれています。
この静脈瘤破裂、有害物質を解毒できなくなったための肝性昏睡、それに肝臓がんへの移行が肝硬変の三大死因です。石原裕次郎の肝臓がんも、肝硬変の小さなタネがもとなのです。
要するに、お酒による肝硬変とは飲みすぎがその原因なのであり、毎日清酒四合以上飲む人は、酒の飲めない人の六倍も肝硬変にかかりやすいのです。その証拠に、壮大な社会実験ともいえる禁酒法施行中のアメリカでも、あるいは食糧不足のためワインを飲めなかった第二次大戦中のフランスでも、このあいだに肝硬変で死んだ人はふだんの約四分の一に減っています。どんなに高たんぱく食をとり高価な治療薬をのんでも、「肝臓毒」であるアルコールをやめな
いかぎり、肝硬変は治るわけがないのです。
外国の予後調査では、肝硬変と診断されてから断酒した人の七割は五年後にも生きのびていましたが、飲みつづけた人で生きのびた人は四割しかいません。
わが国の統計では、最近の三井記念病院の予後調査によると、同病院で肝硬変と診断されたのに酒をやめなかった人は、六年もたつとみな死亡しています。これにたいして、酒をキッパリやめた人の四割は生存していました。

慢性すい炎と栄養不良、下痢

では、肴をしっかり食べながら飲めば、肝臓はだいじょうぷですか。
これは、程度ものだとしか答えようがありません。いつも脂っぽいヤキトリなど高カロリーの肴をふんだんに食べながら飲む「酒飲みの下戸」、つまり、上戸の「ネギ・ミソ派」とは対照的な「ヤキトリ派」の飲みかたはたしかに肝硬変にはなりにくいのですが、反対に慢性すい炎になりやすいのです。すい臓は脂肪やたんぱく質を消化するすい液を出しています。大量の脂っぽい肴を食べると、すい臓に負担がかかりすぎて、ついには慢性すい炎になるのです。わが国の慢性すい炎の患者さんの五割以上がアルコール性のもので、とうぜんながら男性に多いのです。
また、アルコール性すい炎は、ふつうのすい炎にくらべて、すい石など石灰化巣をもつものが多く、また糖尿病と合併する率が明らかに高いのでやっかいです。
おどかすわけではありませんが、慢性すい炎が再発をおこした急性期には、激痛のためショック死する人さえあります。
つまり、慢性すい炎ですい臓に石ができていたりすると、化膿して急性すい炎をおごす場合があるからです。なにしろたんぱく質を消化するすい液が腹の中にもれるので、ものすごい激痛が襲ってきます。その痛みは、ちょうど「背中に焼け火バシをつっこまれたように」と形容されるほどです。小腸内にすい液がでないので脂肪が消化
されず、ギラギラした脂肪便がでます。便意をともなう腹痛発作であわてて病院のトイレにかけこんだものの、焼け火バシをつっこまれたような激痛で、便所内でショック死した人もいるほどです。このようなショックの例は急性すい炎の二、三割はあるということです。また、小腸は胃からおくられてきた栄養素を体内に吸収する重要な臓器ですが、その腸の粘膜はまっさきにアルコールに麻酔されるので、アルコール症の患者さんにはさまざまな栄養障害がおこります。しかも飲酒によって、胆汁やすい液など消化液の分泌が悪くなると、小腸や大腸の機能がおとろえて下痢が多くなります。とくに大腸がアルコールで麻酔されると、便中の水分を再吸収することができなくなります。
ある患者さんが、私の外米にきてはじめて長年の酒をやめました。彼は次回に外来へきたとき、感にたえぬようにいいました。
「先生、酒をやめて2、3日たったときに、20年ぶりで大きな固い便がでてビックリしました。あんなにまんまるで、黄色くりっぱなやつは久しぷりでみました。酒を
飲んでいたこの20年のあいだはいつも下痢便で、一日三回ぐらいグジャグジャした情けない便でした。人間って情けないもので、結果をみなければわからないのですね。このりっぱな便をみて、私ははじめて、いままでがいかにアブノーマルな状態だったかよくわかりました」
俗に快眠、快食、快便といいます。彼は健康をとりもどした証拠として、黄色く、固い、りっぱな便がでたことが、よほどうれしかったのでしょう。しかし、洒をやめたあとに消化器系のはたらきがほんとうに回復して、体重がふえてくるには、半年から一年かかる患者さんが多いようです。

糖尿病の合併
すい臓といえば糖尿病を思い浮かべますが、お酒と糖尿病は関係がありますか?
すい石をともなうような慢性すい炎では、約三割に糖尿病を合併する点が問題です。すい臓は血糖値を下げるインスリンをつくっているので、そのはたらきが低下すると、とうぜん、糖尿病がおこってくるのです。また、慢性すい炎をおこしていなくても、肝障害や肥満による糖代謝の障害がおこるので、アルコール症の患者さんは糖尿病を合併する串が高くなります。
国立久里浜病院内科の高木敏先生によると、アルコール病棟入院時の患者さんの約35%に高血糖があり、それが禁酒によって二週後には15%に減るということです。
したがって、高木先生は久里浜病院のアルコール外来を受診する患者さんの15〜18%が糖尿病ではないかと考えています。
糖尿病が恐ろしいのは、全身のあらゆる血管がつまりやすくなるからです。心臓の血管がつまれば心筋梗塞、脳の血管がつまれば脳梗塞、眼底の血管がつまれば網膜変性症、腎臓の毛細血管がつまれば透析をうけねばならなくなるなど、恐ろしい合併症がたくさんあります。また、足底の血管がつまって壊疸をおこし、足首を切断しなくてはならなくなるケースもあるのです。
糖尿病の患者さんはカロリーを制限しながら、気長に食事療法をつづけなくてはなりません。お酒を飲むと、酒それ自体が高カロリーですので、この計算はメチャクチャになってしまいます。おまけにアルコールはインスリンを生産するおおもとのすい臓をやっつけるのですから、糖尿病と診断されて酒をやめない人はダブル・パンチで自分のからだをいためつけている理屈になります。
「糖尿病には糖分の多いビールやワインはダメだが、ウイスキーならよい」という俗説を信じて、酒をやめない人も多いようです。しかし、どんなお酒であっても、アルコール1gは約7kcalの熱量をもっています。お酒を飲んだら、その分だけ食事を減らさなくてはならないのです。
医師の指導のもとに、まだインスリンは使用せず、食事療法だけですんでいる軽度の糖尿病の患者さんであれば、三単位(ビール660ml、清酒225ml、ウイスキー105ml)以下のアルコールであれば認めようという、やさしい内科の先生もいます。このような、アルコール症と糖尿病とにくわしい先生の指導に忠実に従える患者さんであれば、この程度のお酒は飲めるかもしれません。しかし、酒を飲んで成人病になるような人は、とかく酒にたいしての欲求が人一倍強いものです。そうした人が、意志の座である大脳新皮質のブレーキをまっ先に麻酔させるアルコールの魔力に、はたして抗しうるものでしょうか。
とくに、インスリンの投与が必要な重症の糖尿病の患者さんが飲酒することは、危険な低血糖発作をおこした場合に酪町との区別がつかず、手当てが遅れて低酸素で脳がやられ、植物人間になることすらあるのです。久里浜病院に入院したことのあるような依存症の患者さんになると、その半分がインスリン注射の必要がある人たちです。なかにはインスリン注射を打ち、そのあとごはんも食べずに酒を飲む患者さんがいて、急死する例が多いそうです。
それやこれやで、高木先生たち専門医は、十分な内科医の指導もうけず、自制力にとぼしい患者さんにはだんこ禁酒をすすめています。
「おれはアルコール症ではないし、自分のからだのことはよくわかっているからだいじょうぶだ」と、糖尿病といわれながら酒を飲んでいるあなた。やがて心臓がとまる、目がつぶれる、足が腐りおちる、脳卒中になる、透析をうけねばならないーこれだけ知れば、きっと今夜から酒がやめられるにちがいありません。

アルコールとと血圧

お酒と血圧低どうかかわっていますか。
お酒を飲むと末梢血管がひろがって顔が真っ赤になったり、脈が遠くなって心臓がどきどきするなどすぐに循環器に影響があらわれます。飲酒によってはじめは血圧が下がりますが、その後は時期によって上がったり下がったり動揺します。
一単位程度の少量の飲酒(ビール大びん一本、清酒なら一合、ウイスキーではダブルー杯)は、善玉コレステロールをふやして動脈硬化をふせぐ効果があり、このほかにも血小板の凝集を抑えて血栓をできにくくするはたらきがあります。
しかし、これはあくまでも一単位の少量の飲酒の場合で、念をいれて10単位以上も予防薬を召しあがるのは問題です。久里浜病院の患者さんたちは、高木先生によると入院時にその53%が高血圧になっています。入院して酒を断つとその80%で血圧が下がってきますが、ここでこまった問題がおこってきます。
酒が切れる離脱期には血小板数がふえ、その凝集能がたかまって血栓ができやすくなり、その結果、脳梗塞や心筋梗塞がおこりやすくなるのです。とくに、アルコールは30代や40代で脳梗塞をおこす人の危険因子になりやすいといわれています。たとえば、寒い北陸の地で出陣のたびに愛用の大盃を三杯傾けていた大酒豪の上杉謙信は、四八歳のときに脳卒中で死亡したと、ある病跡学者は考証しています。
もと東邦大学公衆衛生学教室軟授の故額田柴先生の疫学的研究によれば、わが国では肝硬変による死亡率よりも脳梗塞による死亡率のほうが飲酒量の増加と深いかかわりをもっているといいます。欧米のアルコール症は肝硬変で死亡する率が高いのですが、日本のアルコール症は脳卒中で死亡する串のほうがずっと高いのです。

アルコール性心筋症

お酒を飲んだ翌朝、突然死する人がいますが、心臓病とお酒には関係があるのですか。
私のアルコール外来の患者さんには、前夜こっそり酒を飲み、翌朝ふとんのなかで亡くなっているのを家人に発見される急死例がまれではありません。アルコール症には飲酒中や飲酒後の急死事故が多いのです。
こうした急死例は、アルコール症の離脱期には血栓ができやすくなるので、心筋梗塞をおこすのであろうとか、あるいは飲みっぱなしになるとひどいビタミンB1不足がおこるため、むかし脚気の主な死因だった脚気衝心とよばれる心不全がおこると考えられてきました。
しかし、栄養状態もよく、ビタミン投与をうけている大酒家にもこうした心不全はおこります。そこで、まれではありますが、アルコールで直接心筋がやられる「アルコール性心筋症」のあることがわかってきました。これは、ふだんは飲酒後に動悸や軽い息切れ、期外収縮を認めるくらいの軽い症状ですが、進行すると大酒後に突発性の呼吸困難の発作がおこり、急死する恐ろしい病気です。

一日に清酒換算で五合以上の酒を10年以上飲んでいる人は、このアルコール性心筋症をおこす可能性があります。最近、二日酔の朝などに駅の階段で不整脈をおこしたような人は、早めに専門医に心電図をとってもらってください。もし心筋症の疑いがあれば、キッパリ断酒したほうがよいでしょう。

多発性神経炎
そのほかにもお酒が原因でおこる病気がありますか。
アルコールは、神経系のように脂肪に富んだ組織によくなじむ麻酔剤です。そこで、直接末梢神経をいためつける可能性があります。しかも、体内のアルコールを分解・排泄するためには、神経系の栄養剤であるビタミンB類(ビタミンB1、B2、B6、ニコチン酸、パントテン酸、ビタミンB12)をたくさん消費します。したがって、ろくに栄養もとらずに飲みっぱなしになっているようなアルコール依存症の患者さんには、ビタミン欠乏による末梢神経炎のおこることが知られています。事実、国立九里浜病院にアルコール症で入院した350例中の約7%に末梢神経炎がみられたといいます。
この病気の病状は、両足のしびれ感にはじまる知覚障害から歩行障害へとすすみ、さらに進行すると上肢までもおかされて、ついには車イスが必要になる重症例も少なくありません。
たとえば、私のアルコール外来を受診した配線工のある患者さんは、はじめは分厚いたびをはいたような知覚障害があり、スリッパがぬげやすいと訴えていました。そのうちにハシゴから落ちるようになって足場をつかう仕事ができなくなり、ついにはみえない手袋をはめているように手先の感覚までがなくなって、細かい仕事ができなくなったそうです。
断酒してビタミン剤を大量にのんだ結果、半年もすると上肢の感覚障害はなくなりましたが、下肢の知覚・運動障害は残り、また下肢の痛みをともなう異常感覚はどうしてもとれませんでした。
この患者さんは一度でこりて断酒しましたが、アルコール外来を受診するのが遅れたので、末梢神経炎は残ってしまいました。飲みだすととまらないアルコール症の患者さんのなかには、こうしたエピソードを何回もくり返して、ついには松葉ヅエから車イスになるケースもまれではありません。

 

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