ノックビン(ジスルフィラム錠) アルコール依存症治療薬

アルコール依存症治療薬レグテクトから抗酒剤ノックビン(ジスルフィラム錠)に変更。強制的に酒を飲めない体質にする訳だから、抑止力の差は歴然。

アルコール症のときの脳のはたらき

      2016/12/10

アルコール症のときの脳のはたらき

アルコール症になると、脳がアルコールなしでは機能しなくなるというのはほんとうですか?
「酒は百薬の長」というのは、あくまでも清酒一合程度の少量のお酒のときです。五合以上の大量飲酒になると、まさに「酒は万病のもと」になり、あらゆる成人病にかかって若死にすることになります。これは、前章までの説明で十分おわかりになったと思います。
「白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒は静かに 飲むべかりけり」などと、数々の酒の名歌を残した若山牧水は、飲んで興いたれば静かに和歌を吟ずる、まことによい酒飲みでした。しかし、彼の酒量はかなりなもので、友人によると一日一升二合は飲んでいたらしく、胃潰瘍や肝硬変など多くの病気を併発して42歳で夭折しました。
牧水のようにアルコール関連性成人病だけのものを、以前はアルコール依存症の予備軍と考えていました。しかし、これは決して予備軍ではなく、現役の「からだのアル中」だと考えるのが、新しいアルコール症の概念です。
こうした静かな「からだのアル中」にたいして、はでな禁断症状をおこしたり、心理的・社会的問題行動をおこして荒れる「脳のアル中」があります。これは永年の飲酒によって大脳が障害されて、一時的なリバウンドである禁断症状から、やや長期の幻覚症へといたり、ついには、もとにもどらないアルコール痴呆までをおこします。
また、そのあいだには、人格低下状態によって、家族や職場などをトラブルにまきこみます。これが、アルコール依存症の最大の問題点なのです。
酒量がふえる「耐性獲得」から「心理的依存」の段階をへて、ついにはポケットウイスキーのかくし飲みをする、からだが酒をよぷ「身体的依存」の段階にいたると、中枢神経はアルコールなしにははたらけない状態になってしまいます。このとき、アルコールを中断すると、とうぜん神経系がリバウンドをおこして一過性に過剰な興奮状態になります。これが俗にいう禁断症状で、学名を離脱症候群もしくは退薬症候群といいます。

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アルコール依存症ができあがるまでの期間

お酒を飲みはじめてから、身体的なアルコール依存症をおこすようになるまでには、どのくらいの年月がかかるのですか。
アルコールを飲みはじめてから身体的依存をおこすまでの期間は、その飲みっぷりや個人差があってさまざまです。また、時代的な背景も考えなくてはなりません。たとえば、所得にくらべてお酒が高価であった三、四〇登削には、お酒を飲みはじめてから禁断症状をおこすまでに、少なくとも二〇年はかかると考えられていました。それが、高度成長によってだれでもが酒をたっぷり飲める時代になって、たちまち40歳代で肝硬変で死亡する事例もでるようになりました。そのころから、半分の10年で身体的依存になる人もあらわれるようになりました。
その後、成人男性よりも酒に抵抗性の弱い未成年者や女性のアルコール症がふえてくるにしたがって、さらに、その半分の五年間で禁断症状をおこすことがわかってきました。現在では、清酒換算で五合以上の大量のお酒を週五日以上のペースで五年間飲むと、りっぱな禁断症状がおこるとされています。
1980年ごろから国立九里浜病院に入院する女性患者さんがふえてきましたが、このころの男性のアルコール症の患者さんは飲みはじめから入院まで平均20年かかっていたのにたいし、女性の患者さんは平均八年と、半分以下で「アル中双六」の上がりとなっていました。
最近は崩壊家庭などの女子甲学生で典型的な禁断症状をおこす例がみられるといいますから、抵抗力の弱い未成年の女子では四年以下の短い期間で最終段階まですすむと考えられます。この点で、未成年の飲酒を助長するCMや酒類自販機の設置は、日本の将来をあやうくする社会問題であるといわざるをえません。
毎晩のようにボトルをかかえ、飲まないと眠れなくなっているあなた。もし、急病で入院するようになったら、恐怖の幻覚が今夜にもあらわれるかもしれませんよ。

●禁断症状=振戦せんもう
典型的な禁断症状といわれる振戦せんもうとは、どういうものですか。
アメリカのビクターは多年にわたる観察から、患者さんの禁断症状が図のような四段階にしたがってあらわれることを明らかにしています。

アルコール離脱症候群

アルコール離脱症候群

まず、断酒後7、8時間すると手のふるえ(接戦)と一過性の幻視があらわれ、つぎにてんかんとおなじ全身けいれん発作、ついでこ一時間後には幻聴があらわれます。
以上の三つを「小離脱症候群」といいますが、かならずしも三つそろってあらわれるとはかぎりません。小離脱期にけいれん発作をおこす人は四分の一にすぎないのです。
禁断症状の中心は、断酒後三日めにあらわれて2〜3日間つづく「振戦せんもう」とよばれる幻覚妄想状態です。
この期の興奮はきわめて強いため、かつては精神病院の保護室に収容されて、禁断症状なのにアルコール精神病として分類されていました。しかし、この2〜3日間がすぎると、患者さんは長時間死んだように熟睡し、目覚めるとおこりが落ちたようにまったくの正気にかえります。つまり、振戦せんもうは一過
性の禁断症状にすぎないのです。では、実例をあげて説明しましょう。

◇振戦せんもうの事例
53歳の工員。30歳のときから毎晩三合以上の焼酎を飲んでいました。50歳のとき、肝障害をおこして入院しましたが、酒をやめませんでした。ある日、来客があって大量のお酒を飲み、その翌朝、めまいや嘔吐が強いので緊急入院しました。
外来で診察中にとつぜんけいれん発作をおこし、さっそくCTスキャンをとりましたが、異常は認められませんでした。内科病棟に入院しましたが、その晩から一睡もできず、手指のふるえや発汗がひどい状態でした。つぎの晩は看護室に来て、「隣室の患者のベッドに青いドレスの女が寝ている」「こんなお化けのでる病室はかえてくれ」と要求しました。
翌日、私が診察すると、「天井にアリがいっぱいむらがっている」と典型的な小動物幻視を訴えました。このように、ムシやヘビ、小人などの小動物幻視の多いのがこの時期の特徴なのです。あらかじめジアゼパム(ホリゾン、セルシン)を30mg程度あたえておくと、こうした禁断症状を防止できることが多いようです。しかし、このケースのようにいったん禁断症状をおこしてしまうと、くすりをもちいてもあまり効きめはありません。
この患者さんは、つぎの晩もおちつきがなく、「表に迎えの車がきているから」と病棟からでようとしたため、当直医がかけつけてイソミタールの静脈注射で眠ってもらいました。注射後15時間熟睡し、目覚めたあとはまったくの正気にかえりました。あとで聞いてみると、その晩は病室全体が大きな窓にみえて、表で機動隊の車が待っている、なにも悪いことをしていないのに、どうしてつれにきたのか不安で、それになんども注射をされるので殺されると思い、必死で抵抗したのだという話しでした。

禁断症状=アルコール幻覚症

禁断症状のひとつに幻覚症もあるそうですが、どんな症状ですか。
振戦せんもうは、活発な幻視が主体です。これにたいして、幻視はおこらずに、自分を脅かす声やドラムの音などの幻聴がおもな症状で、しかも
経過のやや長い「アルコール幻覚症」が、まれにおこります。
私は、後方から脅かす幻聴に追っかけられて、夢中で空きビルの三階から飛び降りて骨折した事例を診察したことがあります。
ユージン・オニールはアル中であったといわれる作家です。終戦直後のラジオドラマ時代に、ジャングルのなかをしつように追いかけるドラム音が効果的な彼の作品を聞いた記憶が残っていますが、オニールが幻覚症にかかっていたので、このドラマが書けたのではないかと考えています。◇幻覚症の事例
52歳の調理師。従軍して中国酒を覚え、終戦後は焼酎、ウイスキーなど約四合分を約20年間飲みつづけていました。8年前から糖尿病や肝臓の障害で入退院をくり返していますが、最近はやけ気味でウイスキーのボトルー本を毎日飲んでいました。
ある日の帰宅後、いつものように飲んでしばらく眠りましたが、とつぜん愛国行進曲が耳もとで聞え、軍靴を踏みならすザクザクという音が遠くなったり近くなったりするので目が覚めました。耳がガンガン鳴るのをがまんして眠ろうとすると、また行進曲と軍靴の音が聞こえます。そのうちに「オーイ」と戦友のよぷ声がし、「どうしたい、○○」と彼によびかけてきました。あまりはっきり聞こえるので、だれかが家の外で自分をねらっていると思い、竹刀をもってドアを開けましたが、だれもいませんでした。そこに妻が帰ってきて夫のようすにおどろき、精神病院に入院となりました。

アルコール・パラノイアとアルコール性痴呆
脳がアルコールで慢性的に陸害されると、どんなことがおこってくるので脳がアルコールによって慢性的に障害されると、さまざまなこころの症状があらわれてきます。その代表はアルコール・パラノイアとアルコール性痴呆の一種であるコルサコフ精神病です。

◇アルコール・パラノイア
いままでの事例はいずれも急性期に出現するものでした。これにたいして、慢性化して妄想状態を示すようになったものをアルコール・パラノイアといいます。しかし、アルコールによる妄想の内容ではなぜか嫉妬妄想が圧倒的に多いので、むかしから「酒客嫉妬妄想」とよばれてきました。
アルコール症になぜ嫉妬妄想が多いのかについては、いろいろな学説があって議論が定まっていません。単純に考えると、アルコール症にはインポテンツが多いので、妻が浮気をしているという疑いをもちやすくなるからではないかと説明されてきましたが、最近の学説を読んでみると、もっと深遠な論理によって理解されるべきものの

◇アルコール・パラノイアの事例
58歳の工員。20年来の飲酒歴があります。一年前から妻が浮気をしているといいだし、ついに包丁をもって妻を追いかけるようになり、警察に保護されて受診しました。「いい年をして恥ずかしい話です」とはいいますが、問診してみると、「火のないところには煙はたたぬ。妻は10人も二〇人もの男の相手をしている。会社の同僚とも通じていて、連絡をとりあっているから」といって、出社もしないで電話番をしているとのこと。「近所の人も妻の浮気を知っていて、うわさになっています」と、嫉妬妄想のことになると、まったく自分が病気であるという意識がありませんでした。

◇アルコール性痴呆
アルコールによって脳細胞の脱水や脂肪分の溶解がおこるため、お酒を長く飲みつづけると脳細胞がこわれて脳萎縮がみられます。そのため、いろいろな程度の痴呆がおこってきますが、コルサコフ精神病とよばれる特殊な型をとることが多いとされています。コルサコフ状態とは、記銘力がきょくたんに悪くなり、時間や空間への認識(見当識)がなくなり、これに作話症がくわわった痴呆状態のことです。帝銀事件の平沢被告は、狂犬病ワクチンの副作用によってコルサコフ状態になったものと鑑定されています。

◇コルサコフ精神病の事例
53歳の職人。20年以上、毎日ウイスキーを半本飲んでいました。45歳ですい炎、49歳で胃潰瘍の手術をうけています。手術後働けなくなり、妻が勤めにでると、それをいいことに食事もろくにとらず、酒びたりの生活になりました。家で数回倒れたこともありますが、放置されていたようです。ある日、妻の旅行中に大量のお酒を飲みました。妻が帰宅した翌朝に、床の上に座ってなにか虚空にあるものをつかむようなそぶりをし、よびかけても返事をしないので緊急入院となりました。すぐに点滴などの治療をうけ、あらかじめジアゼパムの投与を行ったので離脱症候群はおこりませんでした。入院後一ヵ月たち、歩けるようになりましたが、トイレに行くと方向がわからなくなり、自分の部屋へ帰れず、すましたばかりの食事をまた催促するなど異常行動が目立つようになりました。
診察してみると、日時や場所についての見当歳がまったくありません。忘れないようにと、自分の病室の番号をマジック・インクで手のひらに書いていました。付き添っている娘の名前をたずねると、妻の名前を答えます。CTスキャンでは脳萎縮が明らかでした。検査室から自分の病室へ帰り、ベッドの自分の名札をみると「同姓同名の人がいるんですね」などといいます。この痴呆状態は三ヵ月以上たってもまったくよくなりませんでした。

アルコール性痴呆と健忘症のなりたち

健忘症や痴呆的な症状は、なぜおこるのですか?ろくに食事もとらずに飲みつづけていると、神経の栄養剤であるビタミンB1類が大量に消費
されて、脳幹の乳頭体が障害をうけ、健忘症候群をおこすのです。大量のビタミンB1をふくむ点滴などの手当てを行いますが、意識までがおかしくなるウェルニッケ型脳炎をおこすと、命は助かっても記憶障害はもとにもどらず、廃人になることが多いのです。

●大量飲酒と脳の萎縮
そのような重症の痴呆になるのは、アルコール依存症のなかでも例外的な重いケースなのでしょうか。
「そんな重症の痴呆など、ふつうの酒飲みの自分には関係ない」と思っているあなた。
アルコール痴呆はいつの間にかあなたにもしのびよっています。
コルサコフ型痴呆は、むちゃ飲みで脳が栄養障害をおこしたものです。アルコールはもともと脂肪となじみやすい麻酔剤で、それに脳細胞はほとんどが脂肪でできている臓器です。ですから、毎日の飲酒でアルコールは直接あなたの大脳に浸みこんでいるのです。
それに、二日酔いのときの割れるような頭痛は、アルコールの浸透圧によって脳細胞内の結合水が六〇%も失われて、脳がちょうど梅酒のなかの梅の実のようにしわしわに縮んだ状態からおこるものなのです。
もちろん、翌朝の水分の補給で脳の脱水は回復しますが、こうした大酒をくり返しているアルコール症の患者さんのCTスキャンをとってみると、非飲酒群よりも年齢にくらべて脳萎縮をおこす率が明らかに高いことがわかっています。しかもその萎縮は、意志や判断の座とされる前頭葉においてはなはだしいのです。
アルコール依存症の患者さんのなかには、意志が弱くて根気がなく、その場まかせで、モラルにとぼしく、判断力にかける浅薄な人格に低下している人がいます。しかし、彼らはへんなところにがんこで、自分の病気や欠点をガンとして認めないことが多いのです。この前頭葉症候群がまた、お酒を断つのをむずかしくしているといえる。

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