ノックビン(ジスルフィラム錠) アルコール依存症治療薬

アルコール依存症治療薬レグテクトから抗酒剤ノックビン(ジスルフィラム錠)に変更。強制的に酒を飲めない体質にする訳だから、抑止力の差は歴然。

アルコール依存症と家族・職場

      2016/12/10

アルコール依存症と家族・職場

家族へのアプローチのもつ意味

アルコール依存症の治療は、まず本人よりも家族へのアプローチからはじまるそうですが、それはなぜですか。
アルコール依存症治療の第一歩は、ゆがみきった家族関係の調整からはじまります。最近の精神医学界では家族療法ばやりですが、アルコール依存症の家族治療はなかでももっともむずかしいもののひとつです。しかし、患者さんが立ちなおれるかどうかは、とくにその奥さんを治療の協力者にひきこめるかどうかにかかっています。夫のアルコール症が原因で離婚になる夫婦も少なくないのです。
治療者としての私は、別れたいという奥さんに、「ご主人はこころの病気にかかっているのだから、一度だけは立ちなおるチャンスをあたえてあげなさい」と説得する立場です。

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すでになんども説明したように、アルコール依存症では長年の飲酒によって高等感情をつかさどる新皮質のはたらきが麻庫して、本能のおもむくままの旧皮質人間となるため、性格異常者のようになります。つまり、夫の数々の人でなしの所業をその性格によるものと考えるので、憎しみもわくし別れる気にもなるのです。彼らの所業はじつはアルコール依存症という病気のなせる業です。病気ですから、正しく治さねばなりません。そして、家族は病気であると知らなかったからこそ、怒ったり泣いたりして、いたずらに苦しんでいたのです。アルコール依存症はこころの病気であると理解するだけで、どれほど家族の気持ちは救われるでしょうか。
とはいっても、四六時中、夫の酒乱に悩まされている妻にとって、ただ、「病気だから耐えよ」というのも酷な話しです。耐えきれずに別れていった妻たちも多いでしょう。しかし、逆境にあってもかわらない友がほんとうの友であるように、夫婦が極限状況におかれてこそ、真の夫婦愛が問いなおされるのではないでしょうか。この極限を耐えぬいて夫を立ちなおらせた奥さんは、「夫のアルコール依存症という試練によって、はじめて人生の幸福をつかむことができた」とロにします。
むろんこの境地に達することは容易ではありません。バツイチのエリートサラリーマンがテレビの主人公となる最近では、離婚せずに耐える妻たちは少なくなってきました。ですが、この試練に耐え、幸福な家庭をとりもどした奥さんも決して少なくないことを知れば、夫のアルコール依存症と闘う勇気がわいてくるのではないでしょうか。
ところで、ほんとうは、アルコール依存症の患者さんの妻ぐらいかわいそうな存在はありません。「思いあぐねて酔いつぷれた夫を絞め殺そうと思った」とか、「夢中で自殺しようと考えていたものか、気がつくと幼いわが子の手をひいて、ふらふらと鉄道線路を歩いていた」などという話しを、断酒会の隼会でよく聞かされます。またとうぜん離婚になるケースも多く、家庭裁判所に妻のほうが離婚を申し立てる理由のうち、夫のアルコールの問題は第四位を占めるといいます。
また、アルコール依存症の患者さん本人が、自分からわれわれの外来を訪れることは少ないのです。まずはじめは、夫の酒乱に悩まされてノイローゼぎみになった奥さんが、相談にあらわれる場合がほとんどです。
こんなわけで、私はずいぷんアルコール依存症の患者さんの奥さんたちに会いました。つまり、アルコール依存症の治療の半分は、患者さんの妻にたいする説得・教育なのです。

●家族(妻)の性格とアルコール依存症
夫がアルコール依存症になる原因には妻もかかわっていると聞いたことがありますが、ほんとうですか。
外来にあらわれるアルコール依存症の患者さん本人はきまって、「女房があんなふうだから、つい腹が立って酒を飲んでしまうんだ」といいわけします。しかし、年中酔っぱらった夫からいためつけられている妻の身としては、ヒステリックにもなろうし、つい皮肉の一つもいいたくなるのはとうぜんでしょう。したがってこのQへの回答は、「卵が先か、鶏が先か」という議論に似ています。しかし、公平にみて、夫の酒乱が原因となって妻が情緒不安をおこしていることが多いようです。
ただし、アメリカの精神科関係者のなかには、夫のアルコール依存症の原因が、その妻の病的性格にあると考える学者も多いようです。
ソーシャル・ワーカーであるガードナー女史によれば、アルコール依存症の妻はマゾヒズムと冷感症、それに夫を支配したいという欲求をもっているといいます。また、ヒステリー性格の妻が多く、夫に依存的でありながら厳格であり、支配的であり、侮蔑的な態度をとるそうです。極端な例では、夫のアルコール依存症は妻の精神的な不安定さの代償(はけ口)となっている場合さえあるという説です。
ウォーレンという学者はこれら「妻原因説」の代表格であり、アルコール依存症の患者さんの配偶者を支配者、懲罰者、受難者、動福者の四タイプに分類しています。
しかし、これらの「妻原因説」は、アメリカのカウンセラーが、まず夫の飲酒問題でヒステリックになっている妻たちに面接するので、どうしても批判的な目で彼女らを観察する結果となり、そこからみちびきだされた学説ではないでしょうか。
私の経験では、ガードナー女史のいうような、情緒的に不安定で依存的にみえる妻もたしかにいました。しかし、夫婦同伴の断酒会隼会で会う奥さんたちは、母性的なしっかり者が多い印象であり、どうしてこんなに気立てがよくて美人の女性が飲んだくれの夫と離婚もしないでいるのか、不思議に思ったほどです。ですが、現在断酒会例会に子ども連れで出席している幸福そうな奥さんたちも、決してはじめから平和な顔をしていたわけではないのです。ガードナー女史やウォーレンが主張するように、夫にたいする憎しみや内心の不安で、ゆがみきった般若の形相をしていた時期もあったのです。
私は往診時に、離婚の決意をして実家に帰っていた奥さんから「夫の病気はかならず治る。もし治らねば離婚してもよい」という保証書を書いてくれと、必死の形相でせまられたことがあります。しかし、夫がきちんと抗酒剤をのみつづけ、断酒会に出
席して三ヵ月もたつうちに、彼女の顔は観音さまのように平和な顔にかわってきました。
この事例からも、アメリカの学者の「アルコール依存症妻原因説」はあやまりであることがわかるでしょう。

アルコール依存症の人への具体的対処

具体的には、アルコール依存症の患者の妻(または夫)は、どのように対処したらよいのでしょうか。
アルコール依存症の患者さんの妻(家族)にたいする教育的カウンセリングは、はじめは個別的に行う必要があります。しかし、いちばん手っとり早く効果的な教育は、彼女たちに断酒会に出席してもらうことです。
最近では、日本にも「アラノン」(AL.Anon A・Aの家族グループ)という匿名の、アルコール依存症の患者さんの妻の自助グループがいくつもでき、すぐれた家族治療の場となっています。わが国の断酒会は、患者さん本人と配偶者がいっしょに出席するジョイント・グループですから、同時にアラノン的な役割もかねています。
アルコール依存症の患者さんの奥さんたちは、はじめて断酒会の隼会に出席すると、目の前で素面でまじめに討諭している男たちが、かつては自分の夫とおなじような手のつけられぬアルコール依存症の患者であったと聞かされます。はじめはわが目を疑っていた奥さんたちも、やがて自分の夫や父もこの男たちとおなじように治るかもしれないという気になり、前途に光明をみいだすのです。
また、隼会でかいがいしくお茶くばりなどしているアルコール依存症の先輩の奥さんたちから、「かつては私もあなたとおなじように思いつめていた時期があった」となぐさめられ、ぐちを聞いてもらい、孤独感から解放されます。これらは「同病相憐れむ」の、等質集団のグループ効果です。そして、こんなときはこうすればよい、という体験にもとづく「アルコール依存症の夫の操縦法」を伝授されるのです。
全日本断酒連盟(全断連)の刊行物のなかに、こうした体験にもとづく夫操縦法のノウハウが載っています。私が全断連本部にうかがったときには、作者がだれであるかなかなか明かしてもらえませんでしたが、おそらく複数の奥さんたちの体験の集約
なのでしょう。コラムとして引用しておきましょう。
コラムにみるように、患者さん(夫)に、自分のことは自力で解決する以外にないと自覚させて、断酒全出席にまでもっていく道をつけるわけです。
しかし、ここまでこぎつけても、決して自分が夫を治したと思い上がってはなりません。あくまでも夫が家族のために断酒を決意してくれたことを感謝し、夫のよき理解者となり、断酒全活動にすすんで協力するのです。そして、あまりにすきのない妻では夫に精神的な圧迫をあたえるので、ちょっぴりは夫のお荷物にもなる、かわいい妻の役を演じて、甘えてみせなければいけないのです。この点が、夫への助力よりもみずからの自立を重んじるアラノン型注婦とは異なる点です。
なんたる良妻の鑑でしょうか。「亭主元気でルスがよい」と三食昼寝つきをきめこんでいる奥さんがいたら、爪の垢でも煎じて飲ませたくなる内容です。事実、私が断酒会で会った奥さんたちは、気が練れて母性愛型のしっかり者が多いのです。
「夫操縦法」のこの筆者も、数々の試行錯誤を通して、「アルコール依存症の妻はかくありたい」という理想像を書かれたものでしょう。いろんな精神状態の患者さんをうけいれて辛抱強く相手していかなくてはならないカウンセラーでも、とてもコラムの例のようにはいきません。しかし、このように自分の頭のなかを洗脳していかねば、夫のアルコール依存症は治らないのです。
そのなによりの証拠は、妻たちが断酒会例会で唱えるIいや唱えさせられる「家族の誓い」に象徴されています。
わが国の断酒会は、原則的に夫妻同伴の会であるので、A・Aのようにとくに家族だけの会はありません。妻が集会に参加することはおおいに奨励され、会員にいわせると主婦の参加が少ないと会が盛りあがらぬそうです。ただし彼女たちは、おもてだって討論に参加するわけではありません。
しかし、会に参加すると、まず男性会員の「心の誓い」につづいて、妻たちも「家族の誓い」なるものを読みあげさせられます。その文句とは、「私の夫は断酒会に入会しました。あれだけ好きな酒をやめるのは本当につらいことでしょう。断酒を決意した主人は本当に偉いと思います。主人の酒は病気です。病気だから治さねばなりません。主人の悩みは私の悩みです。主人の断酒のために、断酒会の皆さまと共に協力することを誓います」
というものです。
なんのことはない、〈これだけすさなお酒をおまえのためにやめてやっているおれによく感謝し、あだやおろそかに思わぬように〉と会のたびごとに夫にたいする感謝と忠誠を誓わされているようなものです。これをかつての本場A・Aの「平安の祈り」の文句とくらべると、まことに亭主関白のお国柄健在であるというべきでしょうか。酒の飲めない私などには、この「家族の誓い」など、はなはだ男に都合のよい文句のように思えます。しかし、アルコール依存症の治療に長年従事していると、この文句のように献身的につくさなければ、夫のアルコール依存症は治らないのも事実です。アルコール症の離婚率は高いので、このように自分の頭を洗脳できた妻だけが残って、断酒会に出席していると考えるべきでしょう。

アル中にたいする″なすべからず集″(原文のまま)

アル中に接する時の「なすべからず」〃はたくさんあります。なぜなら成功例より失敗例を思い出す方がたやすく、私達の歴史は全く失敗の連続であったからです。
①酔っている時、訓示したり、叱ったり、おどしたり、議論をしてはいけません。
誰でも体験するのですが、これは、私達がアル中にまきこまれている為なのです。私達のヒステリー現象で、相手も自分もより以上に傷つきます。
翌朝、酔いもさめ、またしてもしでかした己の失敗に後悔とざんきの気持が、かすかながらも出た瞬間をとらえ、話しかけます。それもくどくど話すことは止めましょう。気を取り直して再起を誓うように促せれば、あるいは断酒会出席の約束を取り付けられれば良い。

②ヒステリーを起したり乱暴したりしてはいけません。
アル中は、怒りや敵意のある攻撃に出合うと、自分の心の中で今迄の飲酒を正当づけ、これからの飲酒に対しても口実を侍ちます。家族は、アル中の飲酒に口実を与えてはいけません。酒瓶をかくしたり盈視するやり方も同じことが言えます。
ただし、本人に気付かれないように、スキを与えない配慮をすることは必要でしょう。すなわち監視は不可ですが、観察は必要です。
③アル中の義務を家族が代ってしてやってはいけません。
例えば、酒屋への支払い等を、アル中に代って家族が払ったとします。するとアル中は、常に家族が支払うことを期待します。そしてさらに重大なことは、アル中は、そうして家族を利用しながら、自らの義務を怠ったことに対して罪悪感と失敗感を持ちます。また家族は、アル中に対して非難と敵意の感情を増します。この状態は、再びアル中を酒に走らせる結果になります。
飲酒の不始末を、家族は決してとりはからってはいけません。
(断固として、アル中の甘えを排除して下さい。)
④アル中がウソをつくのを許したり、みとめたりしてはいけません。
アル中はよく、ウソを言います。私達も、たび重なる不始末に疲れて、ウソを受け入れそうになることがあります。でも決してウソを許してはいけません。真実は、ウソを受け入れるより、もっと苦しいものですが、本当のことを知る勇気と、事態をありのまま受けとめる冷静さが必要です。
⑤アル中に勝ちをゆずってはいけません。アル中に「とても女房には勝てない」との気持を起させて尊敬されなければいけません。
アル中のあわれみを受け入れないようにしましょう。そして、アル中を飲酒の結果から逃がしてはいけません。それは、アル中が再びあやまちをくり返す原動力になります。如何なる時でも私達は、アル中よりうわてであり、尊敬されるようにいたしましょう。そしてその尊敬とは、アル中の依頼心や甘えを寄せつけない、いわぱ氷山のような厳しさが必要です。
うちの女房にはかなわない。もはや、いささかも甘えられない。自分のことは自分で解決するより仕方がないのだ。といったことを本人自身が、ひとりでに自覚して行くよ
うに仕向けることです。その具体的な知恵は、断画会の先輩息穆がたから教わることができるでしょう。

A・A家族の会の活動内容

A・Aの家族の会である「アラノン」は、具体的にどんな活動をしているのですか。
「断酒金型の妻」が気が練れた世話女房型だとすれば、最近の世代交代によって、もっと自己主張のはっきりした自立型の「アラノン型の妻」がふえているようです。
ここで、日本A・Aとともに発展してきたわが国A・Aの配偶者グループ、つまり「アラノン」などの家族グループについて、質問に沿って説明しておきましょう。
夫のアルコール依存症に悩まされている妻が、断酒金かアラノンかと迷う場合もきっと多いことでしょう。以下のアラノンにかんする説明と、コラムで紹介した「なすべからず集」とを読みくらべて、あなたがどちらに向いているかを自己診断していただきたいと思います。

◇アラノンの歴史
わが国の断酒金はアルコール依存症の患者さん本人とその妻たちとのジョイント・グループですが、アルコール依存症の人の配偶者グループである「アラノン」は、A・A(当事者だけの匿名断酒金)とは独立した、まったくの別組織です。この点が、断酒金と
A・Aとの大きなちがいのひとつであることはすでに述べました。
A・Aの家族の金として、アラノンのほかに、アルコール依存症の人の未成年の子どもグループ(アラティーン=Alateen)AJ’すでに成人した子どもグループ(A・C‐Adult Children of Alcoholicus)があり、それぞれ独自にミーティングを行っています。
断酒金とA・Aでは、アルコール依存症の人の配偶者(主として妻たち)の意識はちがいます。この点は、「家」という共同体意識に埋もれた滅私奉公的な「断酒金型の妻」と、あくまで結婚契約にもとづくアメリカ的な主婦との、自我融合の差を示すものとして興味深いものです。
ところで、「アラノン」が夫のアルコール依存症を妻白身の問題として意識し、みずからの精神的回復をめざして独立したミーティングを問くにいたったいきさつは、A・Aの創立者ビルの妻であるロイスの反省に根ざしています。
ロイスはビルより四つ年上で、アルコール依存症の夫婦に多い母性型の妻の典型でした。さらに、作業療法士の有資格者で精神病院での勤務経験があったので、どん底の夫を献身的に看護して一家の生計を支えました。
ところがA・Aの創立によって夫が立ちなおったあと、ロイスは、これまで母であり看護婦であり、一家の支配者であった自分の役割を喪失し、深刻な精神不安におちいってしまいました。つまり、「夫をアル中にしているのは、じつは支配的な態度をとるその妻である」とのガードナー女史の見解や、「懲罰者として夫に接する妻である」などとするウォーレンらの「妻原因説」を裏づける側面が生じたのです。
実際問題として、A・Aはもともと閉鎖的な集まりですから、アルコール依存症の夫たちがミーティングを間いているあいだ、妻たちは別室に集まって時間をつぷさねばな
りません。はじめは世間話中心であっても、やがて自分たちの問題を真剣に語りあう機運が生まれるのは、自然のなりゆきでしょう。
一九四一年に、「サタデイ・イブェング・ポスト」がA・Aを紹介してから、A・Aが全米に爆発的にふえるにつれ、こうした家族グループも各地でみられるようになっていきました。ロイスは、こうした各地の家族グループを巡回していましたが、一九五一年に各家族グループによびかけて、その翌年、A・Aに遅れること一五年で「アラノン」が結成されたのです。
「アラノン」のミーティングは、短い黙祷のあと、ロイスの自己反省を反映した〈平安の祈り〉へとつづきます。これは、「いままで夫のアルコール依存症にたいして無力であり、そのためにいらだち、ヒステリックになり、まったくとり乱していた。しかし、
いまやA・Aによって自分たちの態度を改めることができたので、今後はA・Aと力を合わせて前進しよう」という内容です。つづいて、みずからの精神的回復をめざす
「アラノン」独自の12ステップの朗読が行われ、新メンバーが紹介され、指定発言者の話しがあり、自由討議のあと解散します。この形式はA・Aとおなじです。
閉会後は小グループに分かれてコーヒー・ブレイクとなり、話したりなかったぷんの埋めあわせをしますが、このとき、新入会員や問題のあるケースの指導がなされます。「アラノン」はA・Aと同様、緊急電話当番制度やステップ・セミナーなどの新人教育システムをもっています。
発足当時の一九五二年には五〇グループにすぎなかった「アラノン」も、七〇年代には全世界で五〇〇〇グループに、八六年には二万七二〇一グループになりました。アメリカのアラノン世界本部(WSO)には、現在、八五カ国が加盟しているそうです。

◇日本のアラノンの現状
日本で「アラノン」が成立したのは一九八〇年です。東京の吉祥寺に「アラノン」のサービス・オフィス(アラノンジャパンGSO)が聞かれてからです。いまでは大阪市にも関西インフォメーション・サービスセンターがあります。
同会はアラノン世界本部のパンフレット類を翻訳し、いまでは単行本をふくむ二四点の出版物と機関紙『広場』をもっています。
私の調査では、一九九三年現在、日本の「アラノン」は七二グループ、A・Cは八グループ、アラティーンは四グループになっています。また、「アラノン」には、医療関係者も参加するワークショップや新入会員のためのステップ・セミナーもありますし、このほかにビギナーズ・グループが四九あります。
「アラノン」は、家族教育をシステム化しているので、アルコール依存症の夫のため混乱している妻もはいりやすいと思います。お茶くみなどに忙殺されてみずから発言する機会の少ない断酒会にくらべ、家族同士が本音で話しあえる強みがあります。もっとも、アルコール依存症の酒害者と妻との合同グループである断酒会にも、例会参加で夫の隠れた側面を知り、回復状況をチェックできるという利点もあるでしょうが・・。しかし、離婚一回があたりまえとなった最近のヤングに、「アル中にたいする。なすべからず集乙のような「断酒金型の妻」としての忍従を望むべくもなくなったのも、たしかかもしれません。
戦後教育をうけた世代がアルコール依存症の患者さんの主流を占めるようになるにつれ、その配偶者の気質もかわり、「夫と精神的距離をたもち、離婚にたいしてかならずしも否定的でない『アラノン型の妻』がふえているのではないか」と、私は考えたことがあります。そこで一九八九年に、川崎市の酒害者の配偶者について実態調査を行いました。
このときの「断酒金の妻」八三人のアンケート調査を分析すると、彼女たちは、夫がなんとか断酒していても、経済的にも精神的にも余裕のない例が多いのです。また、夫の飲酒を病気として理解できぬ人や、離婚を考慮中の人もありました。この点を考えれば、断酒金自身がもっと積極的に家族グループの充実をはかるべき時代になっているといえるでしょう。

アルコール依存症の家族の相談先

夫のアルコール依存症にtむ妻は、まずどこに相談にいけばよいのでしょうか。
夫のアルコールの問題に悩まされている妻は、まずなにをするべきなのでしょうか。それは、精神科医を受診して、夫がまだ大量飲酒者の段階なのか、依存症の段階なのかを正確に知ることです。夫が受診にウンといわない場合には、家族だけが相談に行ってもよいのです。家族の話しを聞くだけで、入院治療が必要なのか外来ですむのか、だいたいの見当がつきます。入院については、第一…‘章で説明したので省きますが、家族としては根気よくアルコール外来を受診するように説得することがたいせつです。
この、もっともたいへんな作業の相談にのってくれるのは、保健所のケース・ワーカーであり、断酒合であり、アラノンなのです。
断酒合の家族教育や援助とアラノンのそれはすでに説明しました。しかし、利用できるサービスには地域差がありますし、施設や会との相性もあります。そこでまず、自分の住む地域にどんな専門病院やアルコール外来があり、また断酒全やA・A、アラノンが具体的にどんな活動を行っているかを知ることが必要です。こうした情報は、

県立精神保健センターや地区の保健所のケース・ワーカーがもっています。こうした窓口にまず相談されることをおすすめします。

●アルコール依存症と職場
職場ではじっさいに、どのくらいアルコール依存症の被害をうけているのでしょうか。
アルコールが産業にあたえる実害のおもなものは、アルコール関連性の成人病による休業と怠業です。これに医療や社会福祉費などが加わります。
一九九二年の厚生省研究班の試算によると、アルコールの飲みすぎによる経済的損失は年間六兆六〇〇〇億円以上で酒税の三倍以上にあたります。ちなみにこうした損失は、一九八五年当時のアメリカで約一六兆円、八三年当時のイギリスで六〇〇〇億円にあたると試算されています。
わが国の代表的なある大企業で、明らかに二日酔いによると思われる休日数を産業医が推定したところ、ストレスとつき合い酒の多い管理職では年間三〇日に連したのにたいし、工場労働者層ではI〇日にすぎなかったという研究があります。また、アメリカの統計によると、こうした欠勤日数は、アルコール乱用者の場合、お酒を飲まないグループの平均二・五倍にも達するといわれています。
しかし、こうした研究は表ざたにしにくいので、まだまだ発表が少ないのが現状です。

●アルコール関連の病気や問題飲酒者の割合
アルコールにかかわるからだの病気をもつ人や、問題飲酒のある人は、どのくらいいるのでしょうか。
最近は、定期健診を成人病予防に利用するなど、従業員の健康管理に力をいれる企業がふえてきました。
斎藤学らは、行員数七六四三名のある銀行の定期健診で肝機能異常が認められる四八二名にたいしてKASTを実施しています。回答者四四〇名のうち、四一名(九・三%)に「問題飲酒」が、三三名(七・五%)に「重篤問題飲酒」がみられました。
ある工事関連会社の産業医から相談をもちかけられたことがあります。
もういちどかんたんに書けば、この会社は仕事柄、つき合い酒の多い会社です。そのためか、従業員総数はIヱ八二名ですが、右の銀行の倍の、毎年一割以上に、肝障害、糖尿病、高血圧など明らかにアルコール関連性の病気にかかっていると思われる数値がでます。このうちの三二名(二・七%)が、健診の結果をもとに毎年産業医の指導をうけているのに、いっこうに酒をひかえられないで、アルコール依存症と思われるグループでした。
私は、彼らの飲酒関連の成人病への理解を深めるために、くわしい飲酒態度調査を行ってみました。いかにアルコールがからだの病気につながりやすく、またそこから抜けだすのがむずかしいかがわかると思います。

●職場の問題飲酒者とその対応
職場に、就業中にお酒を飲むなど明らかに問題飲酒の従業員がいる場合、会社としてはどのような対応が必要ですか。
自覚のないアルコール依存症の患者さんのグループは、職場における問題児です。ポケットウイスキーをロッカーにかくしてまで飲みつづけるようなアルコール依存症の患者さんは、確実にこうした「問題飲酒群」からあらわれますし、上司はその処遇に頭を悩ますことになります。
とくに、連続軟派発作があって精神病院に入院させなければならないような依存症の人のとりあつかいは、細心の注意をはらわないと、本人や家族から人権侵害の訴訟をおこされるケースがあります。これは、明らかに精神病にかかっていると思われる患者さんが職場に発生した場合とまったくおなじですが、心臓発作などをおこして職場から内科病院に緊急入院させるときのように安易に考えると、落とし穴にはまる場合があります。
以下は三〇年ほど前のケースですが、現在でも十分参考になる事例です。
「労働基準法」によって、従業員数五〇名以上の職場には嘱託の産業医がいます。
ある鉱業関係の営業所で、精神科の緊急患者が発生しました。その営業所は辺ぴな場所にあったので、産業医を付近の精神病院長に委託していたのですが、相談をうけた院長は、錯乱状態の患者さんをそのまま自分の病院に入院させました。ところが、患者さんの妻は、会社と病院がグルになって夫を精神病者にしたてあげたと、人権侵害の訴訟をおこしたのです。
これは、精神科医の私がその資料を読んでも、状態像や過去の病歴からみて、分裂病の幻覚妄想状態で緊急入院の必要があったと判定されるケースですが、入院させるまでの手順が悪かったので訴えられたものです。

そもそも、閉鎖病棟をもつ精神病院に患者さんを入院させる行為は、その人が「精神障害者」であるとのレッテルを貼ることになります。その人の人権を拘束し、社会的信用を傷つけることになるので、入院のとりあつかいについては細心の注意をはらわなければならないのです。これは、アルコール依存症の患者さんの精神病院への入院についてもまったくおなじです。この訴訟事件は、こうした「措置入院」の法的手続きや、入院前に配偶者をよんで状況をよく説明したうえで「医療保護入院」の手続きをとるなど、きちんとした手順をとらなかったために生じたものです。

アルコール依存症患者の入院の条件

アルコール依存症の患者を入院させることができるのは、どういう場合ですか。
精神病院へ入院する場合には、つぎの三つの形式があります。
①本人が精神病院への入院の必要を認めて、みずからの意志で入院する「自由入院」
②本人に、自分が病気であるという意識はないが、保護義務者が入院に同意する「医療保護入院」
③本人も保護義務者も入院をなっとくしないが、放置すると他人を傷つけたり、あ
るいは自殺するなど「自傷他害の恐れ」がある緊急のケースで、県知事の命令で
強制的に指定病院に入院させられる「措置入院」アルコール依存症の人が③の法的入院になるのは、「病的酪町」の場合のように、ほ うっておくと他人を傷つけたり自傷の恐れがある強い錯乱状態の場合です。ふつう、こうした場合は、「警職法第三条」と「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に
関する法律」の第三条とによって、すでに暴れている本人は警察に収容されていることが多いものです。翌日になって酔いがさめてもその錯乱状態がおさまらないような場合に、「措置入院」のケースとなります。
じっさいには、この場合、精神保健法第二四条(警察官通報)によって警察署から所轄の保健所をへて、県の精神保健係に申請がだされ、県知事が精神保健法の指定医を派遣します。そこで、精神鑑定の結果、「自傷他害の恐れあり」と判定されたときに、はじめて措置入院になります。
この場合、二名の指定医の鑑定の一致が必要ですが、緊急の場合にはまず指定医のいる指定精神病院に「応急入院」し、その届けをうけた県からもう一名の指定医が派遣され立会い鑑定を行って、はたして「自傷他害」の恐れのある「措置入院」あるいは「医療保護入院」に該当するかを七二時間以内に決めなければならないなど、厳しい適応条件が課せられています。

●緊急入院の手続き
アルコール依存症の患者が家族やまわりの人に暴力をふるう場合、緊急入院などはできますか。そのためには、どんな機関に連絡をとれぱいいのですか。
アルコール依存症の場合に、泥酔した患者さんが家族に暴力をふるい、パトカーがかけつけて保護されることは多いものです。しかし、こうした場合に酔いがさめて、もはや暴力をふるう恐れはなくなったと判断されると、すぐに自宅にもどされてしまいます。警察署からそのまま精神病院に移送されるのは、あくまでも錯乱状態が長くつづいて、「措置入院」に該当するのではないかと考えられる場合だけです。
アルコール依存症の治療にかかわっていると、こうした危機的な状況に介入しなければならないことがあります。
私は、10年近くアルコール外来にかかわっていますが、そのなかで、すでに一度
久里浜病院のアルコール病棟に同意入院させた患者さんがいました。このケースがふたたびお酒を飲みはじめて家族に暴力をふるうようになり、家族がパトカーをよんで警察に保護してもらったことがあります。本人の酔いがさめて暴力をふるう恐れがなくなると、まもなく自宅にもどされました。しかし、本人は、警察に保護されたことを怒って、また家を飛びだしてしまいました。この段階で、どうしたものかと家族からせっぱつまった相談をうけました。
たびかさなる飲酒と乱暴とに、家族の忍耐は限度に達していたので、飲んでまた警察に保護されたら、こんどはしばらく留置しておいてもらうよう家族から警察に頼ませました。そのあいだに、知人の精神病院長に病状をよく説明してベッドを確保しておいてもらいました。はたせるかな、この患者さんは飲み屋であばれて、警察にまた保護されたのです。そこで、彼のめんどうをよくみていた断酒会の会員と部下の所員とで彼を精神病院に移送して、なんとか医療保護入院をさせたことがあります。もちろん、こうした急場の入院は、入院をうけつけてくれる懇意な精神病院がないとむりです。
本人に入院の意志がなく、しかも荒れて飲酒をつづける依存症の患者さんを精神病棟に入院させる場合、このように多くの関係者の協力が必要なのです。 したがって、こんな急場に追いこまれる前に、できるだけ本人を説得して、まずア
ルコール専門外来につれていくことがだいじです。
また、右のような事情での緊急入院以外にも、連続飲酒によってからだが衰弱して救急車で救急病院の内科や外科病棟に収容される患者さんがあります。この場合、禁断症状としての全身けいれん発作や、それにつぐ幻覚妄想状態がおこりやすく、精神科医の緊急禁断療法が必要であることは、第一…‘章の事例で具体的に説明しました。
こうした総合病院で本人がおとなしく入院をつづけている場合は、入院中から専門のアルコール外来に通院してもらい、アルコール依存症としての意識を身につけさせて、その後、外来通院をつづけるか、あるいは専門のアルコール病棟に転院するかを
本人に選んでもらう手順になります。

●職場でのアルコール依存症の相談先
アルコール依存症でたびたび欠勤したり、仕事上でもミスがつづく部下がいます。どこに相談したらよいでしょう。
この質問のような場合には、直接の上司と労務担当とがつれだって産業医に相談し、産業医が本人とその家族にアルコール依存症にかかっていることを説明し、適当な医療機関を紹介する手順になることが多いと思います。
私は、精神衛生センターの所長をしていたので、こうした悩める上司から部下の処遇について相談をうけることがたびたびでした。しかし、同時に市の職員局の復職判定委員会の委員をしていたので、患者さんをいったん職場から除外する、つまり休職させる立場と、その後、再度職場にうけいれさせる立場とを兼ねる矛盾をも感じていました。また、受診勧奨をいいわたされて市立の精神衛生センターによびだされた本人や家族は、市直営の医療機関の医師からいいわたされたことへの屈折があるようでした。
そこで私は、職員局にはたらきかけて、民間の貸ビルの一室に職員相談室を新設してもらい、民間病院からの嘱託精神科医とケースワーカー、保健婦などのスタッフをそろえました。ここに、診断から病院紹介などの治療への導入や家族指導などのいっさいを依頼し、当方は退院後の復職判定だけを行うようにしたのです。これによって相談室の中立性がたかまり、患者さんも家族もそれほど抵抗なく来所し、私にはいえなかった職場の問題点なども口にするようになったのです。
企業病院をもっているような大企業には、専任の精神科医がいて、外来の精神科医が初診や治療を担当したり、また企業の健康管理部の専任産業医から判定のみを依頼されるケースがあります。
こうした場合、患者さんや家族には、職制から行かされたというネガティブな感情のあることを忘れてはなりません。とくに入院紹介の場合には、いくつかの候補病院を示して、そのなかから家族に選ばせ、あくまでも家族の意志で本人をその紹介病院につれていくという原則をまもらなければならないと思います。肩の荷を早くおろそうと、上司や会社関係者が入院の援助にでかけたりすると、あとで家族みずからが依頼したのを忘れて、会社から精神病院にむりに入院させられたと訴えられる可能性もないわけではありません。
精神病院への入院は、まずその病院の外来で診察をうけ、その病院の担当医が「要入院」と判定してから決定されるものです。しかし、職場と家族との関係がこじれると、入院させるという前提で職場が病院に患者さんを送り、病院とグルになってむりに入院させたという訴えになりがちなのです。はじめはせっぱつまって協力を依頼した家族も、患者さんが入院して自分の気持ちが落ちつくと、「夫を入院させてかわいそう」という矛盾した感情が生じます。また、退院してきた本人に「どうして入院させた」と責められると、「自分の意志ではなく、会社に強制された」といいだすことがあるのです。したがって、入院のさいの応援はできるだけ患者さんの身内にまかせて、会社関係者はタッチしないほうが無難でしょう。
こうした患者さんの早期発見・早期治療などには、職場ぐるみのアルコール依存症にたいする啓発が必要です。ふだんから職場の安全衛生の講習会などでとりあげていくのがよいでしょう。

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